SONY MDR-M1STを本音レビュー

SONY MDR-M1STを本音レビュー

2019/8/23に発売したスタジオモニターヘッドホンSONY MDR-M1STのレビューをしてみたいと思います。

主に制作者向けの内容であり、リスニング目的のユーザーのための記事ではないことをあらかじめお伝えしておきます。

当ブログはアフィリエイトや特定企業とのスポンサーおよびエンドース契約など一切ないため、忖度無しの本音レビューをお届けします。

このヘッドホンはどういうものなのかなど基本的な事はこの記事を読みに来ている時点である程度は把握していると思いますので省略します。


まずはしばらく聴き込んでみて良いと思った部分をあげてみます。

・音の質が良い
低音から高音までどの帯域も作られた不自然感がなくとてもナチュラルな質感で鳴らしてくれます。

・低音の量感が絶妙
MDR-CD900STでは低音が弱いと言われていましたが、M1STではしっかりと出ていて、それでいて出過ぎという事もなく締まりのある低音です。
ベースのラインやキックの長さなどがとても捉えやすいです。

定位のわかりやすさ
ドライバーユニットの角度やイヤーパッドの形状の効果なのか、CD900STより空間が広くなって定位感も掴みやすくなったように感じます。

・音の分離が良い
モニターヘッドホンは耳のすぐ側で鳴って個別の音を聞き取りやすくする必要があるため、イヤーパッドはだいぶ薄めです。
空間の広さと音の近さは本来トレードオフのような関係にあるので、両立するのは難しいのですが、M1STはとても良いバランスに調整されています。

・聴き疲れのしない高音
CD900STでは高音が刺さる、高音が強すぎるなどの意見が多いですが、M1STの高音はだいぶまろやかで刺さりは皆無なので、長時間でも聴き疲れしにくいです。
ただこれに関してはモニターヘッドホンの役割として弊害になる場合もあるので後述します。

ヘッドホンの開発に歴史があり、たくさんの優秀な開発者、蓄積されたノウハウ、莫大な開発資金力、これらを兼ね揃えているSONYは流石というか、定番になりすぎてしまったCD900STが存在するプレッシャーも相当あっただろうと予想される中、妥協が感じられない素晴らしい仕上がりになっています。
うちにある8本のヘッドホンのうち5本はSONY製だというほどSONYのヘッドホンを信頼しているので、これからの定番になると言われているM1STは試聴せずに予約しましたが満足です。

現状ちゃんとしたモニター用ヘッドフォンを持っていないという方にはかなりオススメです。


注意しなければいけないのがMDR-CD900STに慣れている方です。
ハッキリ言って鳴り方は別物です。
単純にCD900STの弱点だった低音が強化されて刺さる高音がなくなると考えて乗り換えるのは危険です。
CD900STが定番で多くの人が所有している一方で「高音が強すぎて刺さるからキライだ」という人も多いのは確かで、でもこの刺さるのは悪いことばかりではないんです。
例えばギターの音をモニタリングするときに、この刺さる帯域が敏感なおかげでピッキングなどの細かいニュアンスがわかりやすいという側面もあります。
M1STが発売した後もCD900STが生産終了にならず併売される事からもわかるように、M1STは後継ではなく用途がちょっとだけ違うのかもしれません。

僕も最初M1STの音を聴いたときに想像と違いすぎて戸惑いました。
というのも、発売するちょっと前に同じSONYのMDR-1AM2というヘッドホンを買ったのです。
これはサイズ感や形が似ていて、開発者さんに同じ人がいて、音もCD900STより低音が強化されて刺さる高音が抑えられた代わりに、更に上の10kHzより上の帯域がかなり強調されていて、鳴り方もなんとなくモニター的で解像度も非常に高かったことから、現代のハイレゾ対応モニターもこれに近い音になるんじゃないかなって予想してました。
実際1AM2はドンシャリで、M1STの発売前試聴レビューを見ると高音が控えめという感想が多かったので、このドンシャリをもう少しフラットにした感じなのかなと思っていました。

なのでこのMDR-1AM2にちょっと細工をすることに。
MDR-CD900ST用のウレタンリングを追加してみました。
ドライバーユニットは同じ40mmなのでピッタリです。
これだけだとそんなに変化しないかなぁと思っていたのですが効果抜群で良い感じに10kHzより上だけを抑えることに成功しました。
低音のほうはハウジングにあいている2個の穴のうち片方を塞ぐと適度に引っ込める事ができました。
ケーブルはモバイル用しか付属していなかったので、長さ2.5mの6.3mmプラグにリケーブル。
M1STの音は絶対こんな感じだ!もうこれでいいじゃん、と予想していたのですが、
これも全然違いました。


音を言葉で表すのは難しいし感じ方は人それぞれ違うので、この記事に書いてることは参考程度にして最終的には皆さんそれぞれが聴いて確認してほしいのですが、M1STはとにかくナチュラルです。
最初はこの音の出方はモニターヘッドホンとしてはどうなんだ?と疑問に思った部分もあるのですが、CDが普及し始めた頃に登場したMDR-CD900STがfor DIGITALと打ってこれからの制作現場にはこういう音が必要だと提示してそれが見事に受け入れられたわけで、それから30年ほど経って世の中はCDからスマホへ、音源も圧縮されてハイ落ちしたもの、ハイレゾで更に高い周波数の再生への対応、ストリーミングやYouTube等の配信でのラウドネスノーマライゼーションに対応したダイナミックレンジを犠牲にしない音源など、今変化していってる音楽の聴かれ方を想定したSONYからの提案だと考えると、このMDR-M1STの鳴り方にすごく納得がいきました。

さらに30年前と違うのが、モニターヘッドホンというのはレコーディングなどで演奏するときに使うもので、ミックス以降はスタジオのスピーカで行う事がほとんどでした。
今はDTMが普及して自宅の6畳間でなかなかスピーカーで音を出せず、仕方なく仕上げの工程までヘッドホンで行うというケースが多くなりました。
そういったニーズも想定してモニターヘッドホンだけどリスニング寄りの音になったのではないかと思います。
そう考えると録音やバンド内でのモニタリングにしかヘッドホンを使わないならMDR-CD900STでいい、というかCD900STのほうが向いているのかもしれません。
やはり完全な後継ではなくターゲットが微妙に違うのですね。全ての用途に万能なヘッドホンなんて存在しませんから。


MDR-M1STのイヤーパッドはMDR-CD900STと互換性はないとどこかでみたのですが、試してみたところピッタリはまりました。
M1STにCD900STのイヤーパッドを付けると低音の良さが削がれ、高音は特に強調されるという効果は感じませんでした。
逆にCD900STにM1STのイヤーパッドを付けると高音が若干和らいで低音が増し、M1STの音に少しだけ近づきました。
M1STのイヤーパッドは片側2000円で単品購入できるようです。

しかしリファレンス機のイヤーパッドを純正以外に交換するのはオススメしません。
イヤーパッドというのはヘッドホンの音質を決めるとても重要な部品です。
特にモニターヘッドホンのリファレンス機のイヤーパッドを純正以外に替えてしまうと、家で聴く音と外のスタジオなどに備え付けられている音にギャップが生じてしまいます。
社外製で様々なイヤーパッドが出ていますが、交換すると出音がかなり変わってしまうので、自宅でしか使わないとか常にマイヘッドホンを持ち歩くとか以外では気をつけましょう。

ちなみにCD900STのイヤーパッドは耐久性があまりないため定期的に交換しないと本来の音ではなくなってしまいます。
破けていたり加水分解でボロボロになった状態では元々少なめの低音が更にスカスカになり高音キンキンな音になってしまうので、3年に一度はイヤーパッドと中のウレタンリングをセットで交換して本来の音を取り戻しましょう。


MDR-M1STを買ってみたけどやっぱりもう少しCD900ST寄りの音がいい…
という方にはリケーブルするという方法があります。
僕は今までリケーブルして音が変わったところで、なんか変わった気がするし気のせいかもなぁ程度だと思っていたので、リケーブルの目的はケーブルの長さを丁度良くしたいとか、変換プラグ無しで繋ぎたい、という理由がほとんどでした。
ですがMDR-1AM2用に作ったケーブルがそのままM1STに使えたので試したところ、確かに音がかなり変わったことが確認出来てショックを受けました。
聴き慣れた感じの音に変化しました。
ただこれもイヤーパッドは純正を使うべき理由と同じであまりオススメしません。


でもやっぱりM1STもCD900STも極端すぎてその中間が欲しいんだよ!
という方にオススメなのはYAMAHAのスタジオモニターヘッドホンHPH-MT8です。
これを置いてるスタジオは少ないものの、だいぶ使っている人増えたなぁという印象です。
低域中域高域全てが中間な感じがします。
個人的には中低域がちょっと窮屈でもう少し低音欲しいなと感じて、これは自宅でしか使わないので思い切って細工してみました。
M1STとCD900STはハウジングに穴が開いているのに対し、HPH-MT8は完全密閉です。
なので後ろ側の目立たない部分に2mmの穴を開けてみたらものすごく好みの音に変化してくれました。
もし失敗したり穴開け後の音が気に入らない場合はパテで埋めなくてはならないのと、完全には元に戻らないので真似するなら自己責任でお願いします。


いろいろ試したり様々な音源を聴き込んだり実際の制作に使用してみた結果、これからの定番になるかもしれないMDR-M1STの音はSONYが提案した純正のままで使うのが正解なんだろうなという結論になりました。
MDR-CD900STと共にこれから長く使っていくと思います。
イヤーパッドが劣化したときの交換はいいとして、心配なのがヘッドバンドの耐久性がどれくらいで交換にいくらかかるかってところですね。高そう…
うちにある最古のMDR-CD900STはそろそろ20年ですが、ひとつひとつのパーツは安いので、劣化したり故障した部分をその都度交換していったら、今では買った時からのパーツはほとんど残ってないです。


いかがでしたか?(←いちど言ってみたかった)
MDR-M1STはMDR-CD900STの価格の倍ほどするので、そう気軽に買える物ではなくなってしまったかもしれません。
その価格に見合うかどうかは使う目的によると思いますので、皆さんそれぞれ試聴してみて目的に合いそうなほうを選ぶといいでしょう。
お金に余裕があれば両方所有して使い分けがベストです。

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